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わからん、それが問題だ  96.11-98.10 マックパワー(連載終了)
第十九話  どっちも正解です、やて。それ早よ言えゆうねん  98年5月号
 勇気を出して出てみよう?うわッ弾力がある!いつのまに改装したのだろう?出口!Non!バキューン!だめだ動けない。

○やあ、タクシーは自動ドアでよかった。ちゃんと開いて。ここんとこ、開かない病なんですよ。いろんなものがうまく開かないの。ふろ場の窓が湯気でくっついて、ガチャガチャやってたら、排気筒?触ってヤケドしちゃって。それからよ。ワイン開けようとしたらコルクちぎれちゃうし。便所でチャック開かなくなってあわてたり。
 地下鉄で切符買おうとしたら、自分の列だけぜんぜん進まなくて。オバサンが自分の番になってからやっとガマ口開けて、小銭さがして。落としたりして。いらついて隣の列に移ったら、こんどはそこがそんなオバサンばっか。それでやっと自分の番が来たら、急に釣り銭切れとかで、機械がストップしちゃって。

◆「殴っとらんから。バランスとれへん。王将で専門学校のやつ殴ったんが最後や。たしか、絵の話やった。絵と額。額を含めたもんが作品なんか、絵は絵だけで見んとあかんのか。どっちや、いうて。殴り合いや。オレはどっちの意見やったかな。忘れた。」

・・・九州ではポポ・ブラジルと呼ばれていたという亡くなったボボ・ブラジルが毎週ひたいから流した血の色は12世紀からシャルトル聖堂で輝き続けたステンドグラスの青とともにサントリーニ島の純白をはさんで私の記憶のトリコロールが完成する。
 高校のころ住んでいた家の周りの風景が思い出せず自分の記憶に穴が開いている不安な状態を脱するためその懐かしい場所に確かめに行けばきっと私の記憶の体系は七色に完成したとたんテトリス的に崩壊する。

◎「時刻表のCD-ROMば、さしこんだですと。頭に。時間の記録ば、集めとうと。それが、だいぶたまったったい。時間。JRとか、飛行機とか。選挙日程とか、歴史の年表とかもじぇーんぶ。時間ばいうと、こう、メッシュ状になっとうきね。たまるとな、勝手にリンクばしはじめて、化学反応ば起こして、よか具合に熱でてくるとよ。」

●勝つ者は、静かに、鮮やかに爆発する。確信してきた勝利のイメージと、一身に背負った期待を、無言のまま、ぶっちぎりでゴールに運ぶ。スピードスケート500m清水宏保選手、王者の金。勝つ者は、攻めて、攻めて、攻める。モーグル里谷多英選手、本人でさえ気づかない業の深さが、運命の流れをたぐり寄せた金。

「景品で、やせるサンダルもろたんや。普通のサンダルより短いやつ。けど、はいてへん。落ちぶれた気イしてな。体やせんと気持ちがやせそうやんか。」



 ケツ出せえ?オテント様ギーラギラ!ねえタバコある?元海軍中尉!Non!バキューン!いい一日じゃねえか。

○こうやってしゃべってても、うまく聞き取れないでしょ。ちょっと前に親しらず抜いてから口もうまく開かなくって。
 なんか自分と外との関係がギクシャクしてるんですよね。出入りが不自由。開けゴマとか、呪文がわかればいいんですけど。パニック症候群?前触れかなあ。それとも、そろそろ地震が危ないから、脱出しろっていうサインかも。
 スペインのね、ルイス・ブニュエルって人の映画みたい。おおぜいの人が外に出られないっていうだけの変な映画があってさあ。いくら努力してもゴハンにありつけないっていう映画もあった。なんだかそんな感じ。

◆「アリとキリギリスの話でケンカになったことあったわ。小学校で。授業でやで。キリギリスさんが倒れたんはなぜでしょう、いう問題出てな。答えがな、食べ物がなくなったから、いうのと、遊んでばかりいたから、いう2つやったんや。組がまっぷたつに割れてな。どっちや、いうて。さいご、殴り合いや。そしたらな、終わりにな、センセが、どっちも正解です、やて。それ早よ言えゆうねん。なんでキリギリスさんのことで鼻血ださなあかんねん。目えとかボコボコやで。早よ言え、いう話や。」

・・・「中華一番」に没入している間に母親からバリカンを入れられている次男のために長男が描いたパンチの鬼・エビワラーのモデルとなった海老原博幸の天才ぶりを説明しても興味を示されなかったのでくやしい私はエビワラーが進化したキックの鬼・サワムラーを岡八郎ばりに形態模写したのにウケず完敗。
 数カ月前にウド鈴木にされた理髪店に復活戦を挑むため「誰がカバやねんロックンロールショーのギタリストみたいにして下さい」とツッコんだらオヤジが「それは緒方竹虎みたいな髪型ですね」と返したボケに敗北を認めたくない私は緒方竹虎というのは自由党だったか民主党だったか思いだそうとイキんでいる間にまたウド鈴木にされてしまい完敗。

◎「そりゃあーた。デリバリーたい。携帯で申し込むとですよ。辞書とか、数式とか、ふつうの知識やったら、スグ送ってくるっと。オンラインのやつもあるったい。機械が特殊でじぇんじぇん高かばってんくさ。音響カプラーみたいなもんで耳から脳に入れてくるったい。ジャックば耳の形によかこつ合わんと、脳にスカスカって入ってこんとよ。」

●勝つ者は、一切の妥協を排除して生きる。そうして集まった世界トップレベルの人たちの中に、死ぬ気で飛べる若者がいる。その中で、たった一人が、わずかの差で、栄冠を手にする。ラージヒル船木和喜選手、技と、力と、美と、気迫を昇華した金。そして、岡部孝信選手、斎藤浩哉選手、原田雅彦選手、一体となって極限の緊迫を打ち破る金。

「あんた小さい頃、まだ静岡にいたころや、近所の川原でいつも遊んでたやんか。川原に住んでた人ら、貧しかったけど、シャキっとしてて、楽しそうやったわな。川は汚なかったけど、人はきれいやったわ。ウラに住んだはったバナナ売りの人らも、あの火事で亡くなった母子家庭な、あいさつとかしっかりしはって、品があった。着てるもんはツギだらけやったけど、いつもちゃんと洗濯してあって、清潔やった。ええ人らやった。」



 誰が?私の事、笑ってんのよ!食べるかい?あんたも残酷だな!Non!バキューン!ちょっと外を見て来ます。

○ぜんたいに出ていくのがむつかしくなってる。社会から出ていこうとしたら、運転手さんの世代だと、エレキやったりカミナリ族になったりしたわけでしょ。だけどそんなのもう不良じゃないし、それにそういうのはけっこう錬磨がいるっていうか、最近だとマジメな若者ですよね、目的意識があって。
 サラリーマンでもイレズミしたりピアスしたりするのがいるし。なまじっかなことじゃアウトローになれない。はみ出せない。あっち側に出たと思っても、すぐ社会に許されちゃって、その瞬間にこっち側に入っちゃう。自己破産だって、体制側に組み込まれてる。そーゆーのもアリだよね、って感じ。ホントに脱出しようと思ったら、ドラッグとか、殺人とか、自殺とか、そんな手しかない。
 ぽかーんと出口が開いてないと息苦しいですよね。はやりのインターネットなんてのはどうなんですかね。出口なんですかね。入口ですかね。

◆「宍戸錠がやな、ランキング3位の殺し屋で、コメの炊けるニオイかいでバランスとんねん。映画やで。鈴木清順の。ようわかるわ、あれ。ダウナー系や。オレら、ライブのビラ、電柱に張るやんか。あれなあ、苦手でなあ、オレ。夜中ゆうたかて、モヒカンで、ビラ持って、ノリの缶とハケ持ってたら、スグみつかるやんか。しょっちゅう留置所いれられるんや。ステージで暴れるんは平気なんやけど、電柱にビラ張りすんのはビビってまうねん。ほんでもな、あわてたらキレイに張られへんやろ。ビラにも美学ゆうもんがあるやんけ。落ちつかなあかん。そういう時な、ダウナー系の歌うたいながらやんねん。カスバの女とか、星の流れに、とかがええな。自分らの曲うたいながらシャコシャコ作業しとったら、たいていパクられるわ。」

・・・不治の病に冒された少女に恋をするということはパゾリーニと三島のことをインタビューしても立派に答える市長を頂くベネチアが徐々に水没している事実を信じないということだ。
 母のように偉大なアメリカに恋をするということはアップルに投資して財をなしたフォレスト・ガンプが幼い頃ギブスをはずして風のように走り出した奇跡を信じるということだ。

◎「かなり危なかばってん、人格データもあるとですよ。非合法やきね、市場ばできてこんやろ。フリーウェアばーっかりたい。物々交換で始まったばってんが、どげんしても性格に悩んどうもんが、よかやつのもらおと思うき、流通しとうとはゆがんだ人格ばっかりたい。そげんゆうても色んなデータ上塗りしてくとくさ、だんだん練れた性格になっとるとたい。ばってんが、ほんなこつインド人のやつなんか当たってみんしゃい、OSが全然ちごうとるき、ヘタしたら記憶がじぇーんぶ消えてまうこともあるたい。」

●勝つ者は、一気に頂上を極める。ヒーローは、いつもふわりと現れ、口笛をふきながら、一番高いところへすっと立つ。ショートトラック500m西谷岳文選手、19歳の必然としての金。

「あたしら、お金のないもんは、ないなりに、筋目とおしてたもんや。むかしは。そやろ。みんなが貧乏やったころの方が、背筋のびてて、礼儀正しかったゆう感じするわ。」



 外のふくらみ?屑の市!鱗粉?マンガ!Non!バキューン!バキューン!

○あれっ、固いな、この窓。電車でね、ドアが開かなくって、怖い話が、あれっ、えいっ、ウルトラQでね、小山内美江子の幻の作品で、くそっ、ケムール人たおした刑事がね、くそっ、怖い、怖い、「あけてくれ」っ。 

◆「神戸いこ、神戸。今から。クルマやしスグや。埠頭いってな、暗いとこ、海にタバコ投げんねん。それで帰ってきたら、朝や。それだけ、て、それだけや。なんで、て、きれいやんけ。」

・・・モンティ・パイソンの中でアントニオーニ詐称の罪でナカムラという男が逮捕された撮影現場のジャングルよりも私のコンピュータ・セットの後ろに何本も伸びているケーブルの方が鬱蒼としたジャングル状になっていて収拾がつかずみっともない。  
 それに比べてワイドショーのタレントの言葉づかいがなってないというテレビへの義憤を手紙メディアに込めて新聞メディアに載せさせる投書熟女は世界最高のメディア遣いだ。

◎「さいきん入れた人格な、ポルトガルの尼さんのもん。それがですね、おためし版バージョン3ち書いとった。一週間無料のプロバイダーのページで見つけたと。ばってん、ダウンロードしとう途中でフリーズばしよって、インストールが中途半端やったと。たまに自分でも訳わからんお祈りばするようなりよっただけたい。」

●勝つ者を、応援したい。オリンピック報道番組でテレビ局に選手を激励するFAXが寄せられている。イラストと絵文字で構成される見事な作品のかずかず。日本のFAX文化はいつのまにここまでハイレベルになったのだろう。FAX選手権があれば金メダル確実。

「新聞かえたんや。今度の配達の兄ちゃんなあ、カッコええで。玄関に、そーって入れはんねん。いつ来たかわからへんぐらい。朝、起こさんとこと思てんのやろな。隠れて見てたらな、いちいち玄関の前でおじぎしたはんねん。学生やと思うけど、プロ意識あるわ。あの子。」


 日常。日常。日常。Non!バキューン!バキューン!バキューン!
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