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わからん、それが問題だ  96.11-98.10 マックパワー(連載終了)
第六話  インターネットは、史上最強のパンク野郎やな   97年4月号
 モノを原料にモノを作るのが工業社会であるならば、知恵を元手に知恵を作るのが情報社会のはずなのだ。その資源は、クリエイティビティーだ。この世でいちばん肝心なのはクリエイティビティーだ。持たざる国、持たざる人、これは深刻なことになる。どうすりゃ持てるか。
「クリエイティビティーに巨万の富を!カネをドカンとやるべきだ。ちゃんと評価するべきだ。中途半端な表現者にも食えるだけのカネと名誉が流れるからいかん。そういうぬるい環境だと、世界トップレベルの才能は、ばかばかしくて、外に出ていってしまう。
 オーディエンスとしては、どこの国の人が作ったものであろうとかまわないが、国民としては、持たざる国になるのはいやだ。世界で勝てない100人のプロゴルファーを養うカネは、一人のノモに回せばいい。100人の無自覚なフォーク野郎への報酬は、一人のサカモトに回せばいい。」
「そんなアメリカ的な厳しい環境よりも、逆に誰でも楽しく参加できる環境の方がいい。そこそこカネが回るシステムを作って、みんなきげんよく表現できるようにしよう。クリエイターの層を広げて、大衆の中からのクリエイティビティーを待つ方がいい。」
「それよりも芸術をはぐくむべきだ。貴族やタニマチがいないなら、国がやるしかない。それもアーティストにカネをやるだけじゃだめだ。フランスを見習え。現代芸術の殿堂、ポンピドーセンターに行くと、ピカソやマティスの絵の前で遠足に来た子供たちが車座になってすわってるんだ。手を伸ばせば実物にさわれるんだ。そこのビデオアーカイブのおばちゃんが、いいテラヤマが入ったよって声かけてくるんだ。パリ市立近代美術館で、デュフィの壁画を見てたら疲れたので、黒くて丸い椅子でほっこりしてたら、館員がそこどけって言うのでよくみたら、オブジェだったんだ。アーティストは、そういう空間のそういう環境から生まれる。それは大変な蓄積のなせるわざだ。それが文化だ。」
「抑圧と絶望を与えるべきだ。抑圧せよ!ロンドンのアンダーグラウンドの怒り、ジプシーの踊り、アフリカのリズム、そういう嘆きや叫びのような表現を絞り出すべきだ。水木しげる先生が言うように、かつては餓死したマンガ描きが大勢いた。表現はそういうぎりぎりのシーンから生まれてくるんだ。」
 いったいどうすればいいか。
 わからん。それが問題だ。わからん時はとりあえず暴れてみよう。そこで友人を紹介する。ミュージシャン兼土木作業員、京都大学西部講堂ウラ在住、33歳。
「カッコええ思とった。自分。シンナーで歯ア溶けたり、ビールびん夜中に集めてきてカネにかえて食いつないだり、オレら店はいっただけで万引しにきたと思われとったからな、毎晩毎晩、ステージの上でも客席でも殴り合いで、血だらけや。
 こんなことしとったら死ぬぞ思いながら時間たつの待っとった。そのうち何か起こるやろ思て。
 3年ぐらいたったかな、ある日、目エさめたら横でマグロみたいな女が寝とった。インディーズのグルーピーや。鼻毛みえててな。イビキかいとんねん。
 なんか腹たってなあ。あほんだら出てけ言うて、けとばして、けとばして、くそっ、何にも起こらん、いつまでたっても、こんなやつしか寄ってこん、あほんだら。
 蹴ってる、うちに、わかって、きた。足の、裏から、わかって、きた。オレは、自分を、けっとる、んや。どいつも、こいつも、ファッション、や。ワルい、ことやる、ゆうた、かて、女、いわす、ぐらいの、ことで、人を、殺せる、わけでも、ないし、ヤクザの、役にも、立っとら、ん。
 オレは単にラクやったんやな。弱いヤツらと血イ流しながらファイティングポーズとってんのが。しばらくボーっとしとった。気イついたら、マグロがハアハア泣いて抱きついてきよった。そしたら、急に決心できたんや。ラクしとったらあかん。何にも起こらん。やっぱりパンクや。パンクしかあらへん。本気でパンクしたろ思たんや。
 マグロには感謝しとる。いまごろええヨメはんになっとるやろ。もう15年も前のことやからな。それからいっぺんも決心は変わっとらん。あのころは、それでええんかどうかようわからんかったけど、今はようわかる。やっぱり人生パンクやで。
 ピストルズ、ヘッズ、テレビジョン、コステロ、そういうのがラジオで流れてきたときはショックやった。ロックゆうたかて、ヘビメタとかプログレとかグラムとか、形が決まってしもててな、入りこまれへん雰囲気やったんや。
 そしたら、ニューヨークやロンドンのパンクて、何でもアリやないか。技術もあらへん。ひとくくりでパンクゆうても、音楽のスタイルはバラバラでな、破壊とか反抗とかいうイメージが強いけど、要はオレでも入れる世界や、オレも音出せる、これでええんやロックは、て思たんがきっかけやな。
 
 日本では最初のころやったしな、モヒカンもピアスも少なかったし、けっこう注目もされたけど、もうその瞬間からファッションになってもうた。他のバンドもな、パンク音楽、みたいな形式から入っとった。何でもアリにならへんねん。
 念のために言うとくとな、だいたい日本は階級も抑圧もないんやから、ほんまのパンクなんてもんはあらへん。追い込まれて、絶望して、音出さんといかん、ちゅうようなことはないんや。土着のリズムもないしな。
 オレが言うてんのは、既成の秩序をポップにひっくり返す、いうこと。それをパンクて言い換えてんねん。音でも何でもええねん、映画でもええし、お笑いでもええ。政治でも商売でもええ。先はどうなるかわからんけどいてもうたれ、いうやつ、幕末の志士とかな、そういうのがパンクや。
 それで、オレはずっと音出してきた。それしか手段があらへん。いろんなことやってみた。ガラス割って、ノズル振り回して、かたっぱしから看板たたいて回って、雄琴で拾たオロナミンCの看板がええ音しよった、実験音楽みたいな立派なもんやない、何か開発の目標があるわけやないんや、音出すことが目的や、ギターの弦、ガラスの灰皿でたたいたら透き通ったキャーンていうええ音や、たぶんリオでもガレージでも同じころみんなそんなことやっとったはずや、ギター壊すみたいな無意味なことはせんかった、ものすごマジメやろ?
 ただなあ、日本のロックて、まだほとんど演歌や。楽器はロックのもん使て、なんぼ速よなったりコンピュータで打ち込みしたりしたかて、しめっぽいやんか。ムード歌謡やんか。そんなんより、童謡のアイアイとか、パーマンのうたとか、プロがシビレルええ曲がいっぱいあんねん、日本には。西田佐知子のコーヒールンバとか、植木等のゴマスリ行進曲とかの方がよっぽどパンクやで。わかるやろ?それを越えんとあかん。
 まわりでごろごろしとった中にはな、ボ・ガンボスとか少年ナイフとか、近藤等則さんとか、世界に出てった連中もおった。ハイソな街でも貧しい村でも道ばたでライブしてゼニとれるスゴイやつらや。オレのやってるバルトリン、変な名前やけど、まだ身のまわりもひっくり返しとらんから、この場所にこだわって、オレのやり方でずっとやる。いまだにライブやっても20人ぐらいしか入らへんけど、まあこれからやと思てる。
 カネはいらん。芸術はゆとりから生まれるんかもしれんが、そんなん関係プーや。そらオレかて、ライブで小銭はいったらうれしいで。木屋町あたりでスシどついたんねん。そやけどな、茶アしばくぐらいのカネあったら十分なんや。ドカチンやって音だして、結構なこっちゃ。そういえば、ドカチンいうマンガあったな。ノーテン・パンク博士ておったやろ。
 それより、ハラへったとか、ノドがカラカラとかいうふうに追い込んどかなあかん。自分に絶望しつづけて、怒って、時代が追いついてくるのからは逃げまくって、走って、走って、走りながら、ひっくり返すんや。音で。
 
 岡崎京子の東京ガールズブラボーの世界?テクノとか、そういうのとは違う。もっとドロくさかった。オレらは。関西のノリなんかな。
 東京とはちゃうわ。基本的に。マクドナルドのこと、あいつら、マックて言うやろ。やっぱりあれはマクドやで。マックはコンピュータやんけ。英語もわかっとらへん。
 オー・ノーいうたら岡八郎やけど、東京のやつは八郎ゆうたらたこ八郎のこと思うんかな、ファイティング原田と同期の日本チャンプや、パンクなオッサンやった、それとも東八郎かな、トリオスカイラインの。エイトマンの主人公も東八郎いう名前やけど、どういう関係なんかな、東いうたらWけんじの東けんじとも関係あんのかな、東京二・京太いう漫才師おったな、師弟かな、西の方には北京一・京二いうのもおった、漫才やめてソウル歌手になったやつらや、パンクやなあ、ゼンジー北京の弟子でな、ゼンジー北京!タネもしかけもチョとあるヨ、中国は広島の生まれヨ、うわーパンクやのー。
 子供のころから、育ちがちゃうからな。はじめの一歩で十かぞえるとき、だるまさんがころんだ、て言うやろ、東京は。キレイや。オレら、ぼんさんが屁をこいた、においだらくさかつた、やもんな。パンクやろ。世界一のボタ山がある飯塚の友達で、インディアンのかばやき、言うやつおるで。こら世界がちゃうわ。新世界や、いうたらドボルザークって言うんちゃうか、東京は。やっぱり通天閣やで新世界は。づぼらや!芦屋雁之助!雁之助の話はいろいろしたいんやけど、キリないさかいまた今度にするわ。
 何でもアリで遊ぶんは根性いるで。規制だらけやからな。あからさまな抑圧はないけど、どんよりした規制でしめっとるさかい、ひょっとしたら日本はじっとりしたええパンクができるかもしれん。
 何でもアリいうたら、インターネットがそうやな。今ええ具合やろ。混沌としとって。入るのも簡単になって。ひっくり返さないかんような様式とか格式とかがまだないけど、インターネットはこうや、みたいな偉そうな連中もぼちぼち出てきとるし。
 オレらほんまの才能はないさかい、あんまり自由やと、エネルギー出えへん。インターネットの表現で、形式ばったもんが出てくんの待ってんねん。ひっくり返したいからな。ひっくり返したら、それはそれで、また別の様式になって定着してまうんやけど。音楽だけやない。政治も美術も何でもみんなそうや。ひっくり返してひっくり返して、歴史はそのくりかえしや。
 インターネットじたいがパンクなんかもしれん。これまで練り上げてきた社会の秩序とか、クリエイターの立場とか、商売のやり方とか、そんなもんを根こそぎひっくり返すていうんやからな。オレらみたいな竹ヤリ戦法と違て、原爆おとすみたいなもんや。史上最強のパンク野郎やな。」
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