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わからん、それが問題だ 96.11-98.10 マックパワー(連載終了) |
第五話 あのウチは毎年結婚記念日にドンペリ一本注文する、とか。酒屋は情報産業だよ 97年3月号 |
こう見えても堅い仕事をしています。法令担当なので、ひごろ役所コトバしか使わないし、論理的なことしか言わない。「馬から落馬する」などとコトバのムダ遣いする人がいれば注意し、オカリナ吹きながらウンコしている論理ハズレな人を見かければその場で説諭しなければなりません。 ギョーカク、キセーカンワ、エヌティーティーのサイヘンセー。ミもココロもパニッ クってる最中、苦しまぎれにこのゲンコーを書き始めたら、ペルーで事件。バタついていたせいで、欧州は寒波でコートダジュールに史上初の降雪、マストロヤンニ死去、横山ホットブラザーズ文化庁芸術祭演芸大賞、という3大事件を知らぬまま、年を越してしまった。 私は悩んでます。いまみんな悩んでます。世の中の動きが速すぎるせいです。ちょっと議論を聞いてみて下さい。 ●マルチメディアというのは地殻変動だった。多メディア化を合い言葉にしてきたのに、これからはテレビもコンピュータも電話もくっつくっていうんだから。つまり、「拡散」を指向してきたのに、「融合」という対立概念がブームになったわけだ。 ●ネットワークとプラットフォームとコンテントというメディア3要素の内部では急スピードで融合が進んでいる。ネットワークは通信でも放送でも使えるデジタル・インフラになる。プラットフォームはマルチメディアというコンピュータに収束する。コンテントはテレビにもビデオにもウェブにもDVDにもデジタルでマルチ対応する。 ●先日、ミネアポリスのラジオ会社の社長に会った。前はテレビやってたんだが、ラジオの方が面白いから仕事を変えたそうだ。かっこいい。 ●これからは3要素どうしの融合だ。コンテントとネットワークの融合。テレビのソフトを通信でも使えるようにすること、つまり「通信と放送の融合」だ。それから、コンテントとプラットフォームの融合。テレビのソフトをコンピュータでも使えるようにすること、つまり「放送のデジタル化」だ。必然といえよう。 ●CATVでインターネットをやるとか、テレビに通信くっつけるインターキャストやインターテキストなんてのも続々と実現している。97年にはADSLも本格化して、通信網は構造変化するかもしれない。 ●96年はNTT問題、衛星デジタル、ネットワークパソコン、64ビットゲーム、いろいろと面白かったね。97年も大波乱を期待したいな。 ●ヨーロッパは、放送のデジタル化というのは多チャンネル化の手段だと見ている。だがアメリカの放送業界は、コンピュータ化の手段だと見ている。放送の競争相手は通信だと考えているわけだ。日本はそのあたりがあいまいだ。 ●ミネアポリスはミネソタの州都だ。ミネソタといえば昔「ミネソタのたまご売り」という歌があった。でもその社長はそんな歌しらんと言うんだ。 ●日本の規制は緩い。G7の中でもいちばんの優等生だ。OECDでも評価されている。できないビジネスはない。アメリカが通信法を改正して規制が緩和されたとかいうが、それでもアメリカの方がキツくて不透明な点が多いと思う。世間は誤解してるよ。 ●通信産業は経済をリードしている。移動体通信だけでも設備投資は自動車産業を上回っている。日本の産業界の主役交代だ。 ●通信・放送関連産業をトータルすると年33兆円だという。一日1000億のビジネスが生まれているわけだ。毎日、それに見合うだけの行政をしてると言えるか。 ●パチンコ産業は30兆円というではないか。産業規模の意味を考え直せ。 ●競争力があるのは、アニメ、ゲーム、カラオケ、パチンコ。日本はこれを中核に産業政策を再編しよう。 ●ハウスのたまごめんのCMでも替え歌が流れていた。ミネソタはたまご売りだ。エッグセラーだ。そう主張したんだが、社長はミネソタにたまご売りなんかおらん、と強硬なんだ。その場で本国に電話して秘書に確認していたが、おかしな話だ。 ●「通信と放送の融合」も「放送のデジタル化」も、数年前まで疑問視されてたのでは。政策を転換するにはずいぶん苦労があった。あとはネットワークとプラットフォームの融合だが、これはA省とB省の融合を意味する。デジタルは行政も融合するのか。 ●規制緩和も含めて、日本の市場構造改革は必要だ。NTTも再編される。料金ももっともっと下げなければ。だけどそれは民間のやる気にかかってる。 ●自己責任。NTTの若手と勉強会をやってたんだが、その結論は、例えば2010年にバーチャル産業社会がやってきて、就労や生活の面で自由を獲得したとしても、それ相応の責任が同時に発生する。その重圧にどう立ち向かうか、ということだ。 ●郵政省はホームページで通信政策について公開議論をしている。市民とのインタラクティブ行政の試みだ。小さなトライだが、意味はデカイ。 ●後進国は先端のメディア技術を一気に導入し、ジャンプアップしようとしている。中国、ポルトガル、オランダ、英独仏、アメリカ。日本はずっとずっとよそに学んできた。今度はマレーシアあたりに学ぶことになるのか。 ●戦後、日本は軍事も宗教も文化も捨てて、経済だけでやってきた。その経済がアジアにやられると、何も残らない。安全と平等という売り物だって、あやしくなってきた。 ●ミネソタではどうだか知らんが、日本人にとって、ミネソタはたまご売りなんだ。 ●資源や科学が限界をみせ、国家と産業が遊離する。近代の閉塞状況の中で、進化や豊かさといった価値が漂流している。新しい自我を形成する時期だ。 ●エネルギー消費型の工業社会では、日本は持たざる国だった。知識消費型の情報社会で持てる国になるには、情報文化技術立国しかない。 ●国家から地球。経済から文化。中央から地方。政府から市民。工業から情報。要するに21世紀はネットワークだ。 ●オレはミネソタに行ったことはないし、たまご売りを見たこともないが、確立されたたまご売りのイメージってものがあるだろう。エプロン姿でたまご山盛りのカゴ持って、っていう。違う? じゃあ、どういうイメージだよ。おまえのミネソタ観を語れよ。 日本は、ミネソタは、メディアは、どうなるのか。 わからん。それが問題だ。わからん時はとりあえず現場に出てみよう。そこで友人を紹介する。酒店経営、登別市在住、55歳。 「POS入れたわけ。8年ほど前。白黒のシマなぞるだけで計算できる。レジなんか知らなくても、なぞって、ありあとあしたーって言えれば、中学生でも即戦力だ。したっけ、ムダな在庫もなくなったよ。品物が足りなくなったら自動的に運ばれてくるんだ。問屋やメーカーの監視カメラみたいなもんだ。 でも、これ入れるかどうか迷ってたときは、問屋の連中、毎日よく来てた。コンピュータ入れりゃ、系列もはっきりするっしょ。俺は結局、同業の小売り連中がやってる草の根のネットに入ったんだけど。その方が川上への発言力が持てるからな。 九州の店に問屋がカクビン300円値引きして入れた、なんてコトがあったら瞬間的に全国の店に知れ渡っちゃうんだよ。そしたら、全国の店からその問屋に注文が流れるわけだ。小売りが問屋を選ぶんだな。 そしたらな、値引き攻勢が始まってな、価格破壊とか言ってだ、この業界、厳しくなっちゃった。ポメリーやモエシャンが2500円で、ジョニ黒が1000円。むかしの10分の1だ、面白い時代になったべ。物心ついたのが終戦でな、あのころの、むしょうに不安だけどこれから何かあるぞ、っていうぞくぞくした感じがまた来たよ。 注文だって、ほら、ここのボタン、ピッて押してやればすぐ問屋から送ってくるよ。今日中に来るね。店に置いてるビールとかも、もう要らないんだよ。お客様はなじみばっかりだし、注文さえ取れりゃ、ボタンでオーダー出して運べばいいんだから。店ももう要らねえな。 メーカーにはこのPOSの情報が全国からいつも流れ込んでるから、販売戦略がかなり緻密になった。生産サイドがネットワークで家庭まで侵入してくるのは時間の問題だ。こんな服が欲しい、ってボタン押せば注文が工場に行ってさ、コンピュータとロボットが思いどおりの商品作って運んでくる、なんてのもすぐできそうだ。 危機感あるよ。捨てられるんじゃないかって。気がついたら、メーカとお客様がインターネットで結束してた、なんてな。でも、お客様のニーズは俺が一番ちゃんとつかんでるんだ。ほら、あのウチは毎年結婚記念日にドンペリ一本注文する、とか。その強みで力つけておかないと。酒屋は情報産業だよ。 誰がお客様のネットワーク窓口になるかがキメ手になる。ネットワークを商売の手段に使おうと思ったとたんに、主導権争いに巻き込まれて、今度はネットワークに操られてく。それじゃだめだ。監視カメラをのぞき返してやらなきゃ。 これで商売広げるべや。酒だけじゃなくて、海産物とか、車とか家具とか、とにかく何でもこの店に注文すりゃ世界の商品が届きますっていうふうにしたいんだよ。まあ、道楽だ。息子にこの店くれてやって、俺はインターネットでデパートのオーナーになろうって思ってんだ。このあいだ孫ができたんだけど、そいつのためにな。 インターネットの商売で成功したやつはまだいないだろ。結局は集金方法なんだよ。肝心なのは。カネをどう集めるかで決まる。商売は。大手もインターネットに店だしてっけど、要はみんなゼニの取り方を試してるだけなんじゃねえか、まだ。集金なら俺はけっこう自信あるからな、これから割り込んでも何とかなるはずだ。遅くはない。 こんなイナカでも、やっと東京に対抗する手段が見つかったってとこだな。道路つくったり鉄道ひいたりするのに比べりゃタダみたいなもんだし。第一、道路だとかいうのは、東京にくっつこう、くっつこうとする手段だろ。ネットワークは違う。インターネットは東京なんかすっ飛ばして世界と直結してる。どことでもくっつくってのは、どこかをすっ飛ばせるってことだ。 ホントは、情報を出す側に回りたいんだ。若けりゃなあ。アジアやアメリカとくっついて、パワーのある情報だせば、カネなんかなくたって、でっけえことできるはずなんだ。イナカでもな、発信する情報しだいでな、世界の中心になるんだよ。」 |